「おーいっ、大変だーーー!」
里の外部からの折衝を引きうける係の者が、可愛い封筒を手に血相を変えて神殿へ走る。
外部からの折衝というと、交易や郵便物の交換などがある。
郵便物は主に、フローラを影から護衛するアラリアからの現況報告だったりするのだが、今回は違ったようだ。
何だ何だと、神殿前の広場に住人達が集まってくる。
「何です、騒々しい。」
神殿の奥から、一人の女性が分厚い本片手にやってきた。読書中だったようだ。
「しっ、しっ、司祭様!!これが落ち着いていられますか!?
ふ、フローラ様からお手紙ですっ」
[3回]
ざわ、と、集まった人達がどよめいた。
「フローラ様からお手紙ですって…!?」
「出て行ってから初めてなんじゃねーか!?」
「何か困ったことでもあったんじゃ…!」
騒ぐ住人達の耳に、ぱん、ぱんと手を叩く高い音が届いた。
口をつぐんで注目すると、音の主は女性…司祭様だった。
「騒ぐものではありません。あと、フローラの事は様付けにしない決まりでしたね?
…ふむ、ようやっとフローラも、里へ便りを出すだけの気づかいが出来るようになりましたか」
そう言うと司祭様は、進み出た外交係から手紙を受け取る。
封を切って中身を取り出すと、植物をモチーフにした、ポップで可愛い、女の子が好きそうな便箋だった。
司祭様はそこに連なる文章を、朗々と読み上げた。
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しさいさま と 里のみんなへ
しさいさま、里のみんな、げんきですか?
フローラはとってもげんきです。
フローラがトレステラにきて、だいぶたちました。
毎日、あたらしい発見があって、とても楽しいです。
とても大きな町なので、いろんな人がいます。
でも、たくさんの人が仲よくしてくれます。
フローラは、冒険者になりました。
フローラも、おしごとをするようになったんだよ!
おしごとをすると、もっともっとたくさんの人に会えるし、いろんな所へ行って、色々なことが出来るの。
とっても楽しいです。
とてもさむくなってきたので、しさいさまも みんなも、かぜひかないように気をつけてね。
またお手紙します。
フローラ
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司祭様が読み終えると、再び広場はざわつきだす。
「冒険者になられたのはアラリアの報告で知っていたが…」
「怖い目に遭ったりなさっていないんだろうかねぇ…」
「よくしてくれる人がいるのはいい事だけど…」
そんな住人達に、司祭様は声をかける。
「アラリアがついているとはいえ、旅は安全とは限りません。
素直で純粋なフローラのことです、いつ誰に騙されないとも限らないでしょう。
しかし、トレステラには助けになってくれる人も多いと聞いています。
…以前送られてきたけったいな…いえ、奇抜な…いえいえ、珍しい、フローラをモチーフにした作品群からも、間違いなくフローラが愛されていることが伺えます。
少なくともフローラが楽しんでいる今、私達はただここで、信じてあげるしかないでしょう。」
住人達が頷き合い、落ち着いてその場を後にし始め、持ち場へ戻って行くのを見ながら、
司祭様はもう一度手紙に目を落とした。
「しかし…ご勉学の方はまだまだなようですね。これしきの綴りも出来ないようでは…」
こればっかりはアラリアには期待できませんからねぇ、と溜息をこぼし、司祭様は手紙を大事にしまって、神殿へ戻って行った。
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