ユージュは宮仕えと神官としての修行を並行して行っているので、宿舎に泊りがけになることも多い。
が、その日は運が良かったというか、偶然が重なって比較的早く邸宅に帰ることが出来た。
両親に挨拶すると、トレステラから手紙が届いていましたよ、と言われたので、早々に部屋に引き上げる。
トレステラから手紙が届く心当たりなど、ひとつしかない。
悪い事でなければいいが、と逸る気持ちを抑えて封を切る。
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ユージュへ
この間は世話になった。無事に帰りついたか?
あれからぼーっとして見えるのが治らないようで、周囲に心配されているので、頼んで魔法解析をしてもらった。
その術士が言うには、封印がわたしの魂の一部を巻き込んでいて、エネルギーも無駄に消費しているように見えるので、この術の在り方が本当に正しいのか聞きたいとのことだった。
わたしは特に不便に思っていないし、封印が堅固であるならそれで構わないと思うのだが、どうだろうか。
返事を待つ。
フェイツェイ
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文面に何度も目を通し、ユージュは複雑な思いを抱いていた。
ユージュは、神官としての位はまだ下っ端から中堅の間くらいの位置だが、四家の子女であることから、魔力もお墨付きだし将来も期待されている。
故にフェイツェイの神化事件の際、トレステラに派遣されたのだが…。
その際に知らされた、国でも一部の者しか知らない、この国の根幹とも言えるシステム。
「…知らない人から見れば、呪い、なのかもしれませんね。」
鈴の鳴るような小さな声は、誰にも聞こえないようにそっと紡がれて。
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フェイツェイへ
お手紙ありがとう。わたくしは元気です。
ごめんなさい、一応機密なので、あまり詳しく知らせることはできないの。
ねえ、昔話を覚えている?
歌の稽古ではあなたが叱られて、踊りの稽古ではわたくしが叱られていましたよね。
ただ純粋に信じていたあの頃が、懐かしい。
ユージュ
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